2007年3月7日水曜日

正反対の女(前編)


もう引退しているが、「職業は?」と聞かれれば、今でもこれしか思い浮かばない。


私は、ホステスだった。

少し経験がある、という話ではなく、十五年以上の長い年月、この仕事一本であった。
色んな店に勤めたが、基本のホームグラウンドは、大阪の大歓楽街・北新地である。

自分の仕事に決して誇りを持ってはいなかったが、別に恥じてもいなかった。
しかし、私は自分の職業を人に明かすのが、とても苦手であったのだ。


理由は二つある。

一つは、信じてもらえないからだ。

私は見た目が男っぽい。遠目からだとオニーサンにしか見えないだろう。
しかも、頭の中はゲームの事でいっぱい。
こちらのほうはオニーサンというより、小学生男子、といった雰囲気。


いつだったか風邪をひいて病院に行った時の事。
真昼間にもかかわらず、私が「今日は仕事を休めないので」とか言ったからか、
なんとなしに質問された。

医者「お仕事は何を?」 
私「えー…。お水…いえ、ホステスです。スイマセン、ハイ。
医者「は?」
私「ですから。えーと。お酒を提供する、というかですね。あ、酒屋さんじゃなくてですね。あはは。
一秒後、医者は私の予想通り、目を丸くしてお叫びになった。「あなたが!?」ほっといて下さい。


でもそのパターンは、まだいい。
私がホントに苦手なのは、「私を少し知っている友人」に、職業を明かす瞬間である。


私が自分の職業をカムアウトすると、たいてい「……。」という沈黙が流れる。

「ってちょっwこの人オトコみたいだしホストならわかるけどていうかこの人顔濃いけど気弱いし暗いし人見知りだしなんかオタクだしそんな仕事できるわけな(略)」
…みたいな事を考えているのかなあ。 と私は暗く妄想してしまう。

長い「……。」の間、子羊のように怯える私はストローでコーラを飲み干す。
ズズ~~~とマヌケな音が喫茶店内に響く。

「あ、そうなんだ。で、こないだの話だけどー」とか話題を変えられてしまうと
なんだかノックアウトなのである。



二つ目の理由はシンプルだ。

その女(仕事をしている時の自分)が、嫌いだったからである。


今考えると不思議な気がするが、私にも「会社員」をしていた時期があった。

好きで選んだ仕事だったが、なんだか思っていたのと違う。仕事をしているとつらい。
仕事をなんとかこなしても、会社で嫌な事があると家に帰っても引きずってしまう。

挙句、身体と心のバランスを崩し、2週間で10キロ体重が落ちた。
やむをえず、休養のため、会社は辞める事になった。
その後どうにか似たような仕事に就いたが、結局、長続きはしなかった。



私は面倒くさくなった。


いっそ、私のロボットが、私の代わりに働いてくれたらいいのに。



この発想自体は、多くの人が一度は考えた事のある、らちもない夢かもしれない。

だが私は、あろうことか、この発想を「現実」にやらかしてみようと考えた。

こういうあたりが、私が自身を「暗い」と評する所以である。




少しだけ違うものより、正反対のもののほうが、バランスは取れるものだ。



ならば、私自身とは正反対の、強いロボットが、いい。
強い者だけが生き残れる、そんな職場が、いい。


そう考えた私は、生きていくために、正反対の女を創り上げていった。



ウェットをドライに。感傷的な心を無感動に。淋しがりやな弱い羊を一人で生きていける狼に。
念入りにメイクする。華やかな衣装に着替える。光る装飾品を武器のようにちりばめる。
仕上げに、大音量で音楽を鳴らし、気合を入れる。


さあ、戦場へ。


そして、それはなかなかに、面白いゲームだった。


(正反対の女・中編につづく)     



本日の一曲:「狼になりたい」 中島みゆき

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