2007年3月9日金曜日

正反対の女(後編)

(正反対の女・前編中編からの続き)


私がプレイしているゲーム信長の野望Onlineは、同サーバーに三人キャラを持てる。(注・2007年当時)

一人目のキャラの基本モデルはうちの猫、二人目のモデルは私のツレである。

どうせだから三人目も作ろうとして、少々困った。
次は私自身がモデル、というのが順当だとは思ったのだが、
自分のキャラを作るのは、なんというか抵抗があったのだ。

オフラインゲームならともかく、他人様の前で自分自身にそっくりなキャラを動かすのか…。
モジモジ人見知りしてしまって、パーティになんか入れないんじゃないか…。


悩んでいて、ふと、うってつけの人物を思い出した。

ミユキ(仮名)である。

戦うため、に創った、もうひとりの私。


おお、こりゃーおもしろいかも。華やかな女陰陽師なんかどうだろう。
陰と陽。正反対の象徴を印に持つ、術のエキスパート。
何か因縁めいていて、ピッタリではないか。


「作り慣れている女」だけに、キャラメイキングはスムーズに進んだ。

あとで思えばこれが、あの女を私生活に持ち込んだ、初めての経験であった。



この世界での陰陽師は、他のゲームでいうところの「魔法使い」にあたる職になる。
強力な術で攻撃するのが基本なので、アタッカーとしての能力は高い。
だが、体力(HP)も防御力も低い。 しかも術を発動するのに、無防備な詠唱時間を必要とする。
自分を守ってくれる人なしでは、殆ど何も出来ない。ソロ戦闘は苦手なのである。


私は、ミユキに似せようと、このキャラでは友人を作らない事にした。
そして、人の少ない、すなわちパーティの組みにくい過疎国からスタートさせた。
本来、ひとりでは戦えない魔法使いを、である。

苦労してレベルを上げなんとかやっていけるようになった頃、思いきって国を出奔させた。
帰る所の無い、浪人にしたのだ。
あっさり故郷を捨てる恩知らずな女。いかにもあの女らしいじゃないか。


ゲームの主人公の役を演じるRPG(ロールプレイングゲーム)で、
ゲームの主人公に、「私」の役を演じさせたのだ。

しかもその「私」は、別の場所で、私が演じていた役である。なんともタチの悪い冗談だ。


こうして、戦国の世をひとりさすらう、誰かさんソックリの、冷たい魔女は出来上がった。



指先から力が解放される 氷の波が地を這い 容赦の無いうねりとなって敵の身体を覆い尽くす


しかし、この氷の魔女と旅をするうち、いつしか私は夢中になっていた。

幾度もギリギリの死闘を切り抜けるこの魔女に、歓声をあげ、喝采していた。


と同時に、「モデルになった女」の事を、頻繁に思い出すハメになった。
仕事を離れたら、敢えて考えないようにしていた、あの大嫌いな女の事を。


それはそうだ。わざと似せたんだから。どんな女だったか、自分で掘り返したんだから。
タチの悪い冗談が、皮肉にも、初めて真剣にあの女と向き合うための「鏡」になっていた。


ゲームの中で美化されたキャラを見るうち、都合のいい混乱をしたのかもしれない。
ただでさえ、過去というのは記憶の中で、美しい姿に形を変えるものだし。



それでもふと、あの女は、とても、可哀相だったんじゃないかなと、思う時があった。


魑魅魍魎のはびこる「戦国」を、たった一人で歩いていった女。 自身にさえも愛されず、か。


笑ってしまう。 いつしか私は、「あの女」を、好きになってしまっていたのだ。




途端に、何故だろう。

私は、「あの女」の痛みを感じるようになった。ずっと昔の、無かったはずの痛みを。



無理矢理眠らせたものが、ただ目を覚ましただけかもしれない。


私の代わりに闘った、幻の剣。 私を守った、幻の楯。 私が創り上げた、幻の檻。


消えた檻の中から、眠っていた子供がごろんと転がり出ただけ。



1プラス1は、2、じゃなかった。 最初から一人しか、いやしなかった。

私が嫌いだったのは、「あの女」、なんかじゃない。




今私は、ホステスを引退している。 十五年の、長い長い「RPG」は、終わった。

だからもう、あの女が、鏡に映ることは無い。



でも、きっと、どこかにいるんだろう。
二人いた人間が一人減ったわけじゃなし。
嫌いな方も好きな方も、強い方も弱い方も、別々にいたわけじゃなし。



あの頃の事を思い出すと、少し胸が痛む。
この長い長い文章を書いている間も、ずっと疼いていた。


でもまあ、しかたない。今は、この痛みに付き合ってみるとしよう。



あの女は、間違いなく、「私自身」だった。 ただそれだけの事なんだから。




本日の一曲:「DIAMOND CAGE」 中島みゆき

  

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